ベティ・ブープ"Is my palm read"

zeroset2005-08-06

 ベティ・ブープ紹介3回目。今回は個人的なベティ・ブープ・ベスト短編"Is my palm read"(邦題「ベティの運命判断」)を紹介します。1933年の作品。
 タイトルバックは以前紹介した"Betty Boop M.D."と同様のもの。ただ、最後のベティさんがウィンクする箇所では"Betty Boop"と大きく書いてある下にビンボーとココ両方の名前が競演者として記されています。

 さて、今回の話はとある怪しい館から。屋根の上には電光板で骨相図と手相図、そして「ビンボー教授があなたの過去・現在・未来を明らかにします」と書いてあります。どうやら占いの店の様。近くにはビルが屹立していて、都会の一角の建物であることも判ります(後で判るけど、これ重要!)。

 建物の中では黒犬ビンボーと道化師ココが、魔女らしき影に礼拝中。怪しい雰囲気ですねえ。ベティ・ブープものにはこういう怪奇趣味がいたるところに見られます。
 
 そこへお客が到来。ココが覗き穴で確認しようとするけれども、良く見えない。そこで穴を指でひょいっと動かして位置調整……という、いかにもこの頃のカートゥーンらしいギャグ。固いはずのものがぐにゃぐにゃしていたり、非生物が生命を持っているかの様に動きまくったり、という奴です。
 さて、お客はベティさんでした。さっそく帽子とヒゲをつけて、それらしい扮装に着替えるビンボー。この詐欺師めいた雰囲気がたまらない。上述の怪奇趣味といい、この頃のフライシャー作品には、いかがわしいものがカッコイイ、という意識に満ちているように感じます。
 
 外で待つ貴婦人の様な格好のベティさん。するするとロール紙の様なものが降りてくると、何故かそれがエレベーターに(平屋なのに!)。しゃなりしゃなりと乗り込んだベティさんは、彼女の輪郭の形に開いたドアを入ります。
 
 ここで彼女にスポットライトが当たり、素足のシルエットが露わになるという、大人向けギャグがあります。ビンボーもココもご満悦。「私のするとおりに付いて来なさい」といかめしい様子で案内するビンボーに、自分もいかめしい表情をして付いていくベティさんが微笑ましい(「私のするとうりに」という言葉をそのまま実行したわけですね)。
 さて、水晶玉を覗き込んだビンボーは「そなたの赤ん坊時代を見せて進ぜよう」と透視を始めます。やがて水晶玉に映像が浮かんできて……
 
 そこには水浴びしている赤ちゃんのベティさんが!う〜ん、体は赤ちゃんだけど、顔は普段のベティさんのままなので、なんだか……見てはいけないものを見たような気持ちになります。もっとも、もともと(文字通り)ベビー・フェイスなキャラなので、合ってると言えば合ってるのかも。ちなみにベティさんの熱烈なファンである筒井康隆は、

からだつきは赤ん坊だが顔は現在のベティさんそのまま。なんともエロチックであり、韓国でカットしたのも当然とさえ思えるどっきりシーンである。
筒井康隆ベティ・ブープ伝』p84)

とこのシーンに大興奮。
 さて、水晶玉の映像は切り替わって、未来を映し出します。
  
 そこには、タイタニック号のような客船が、大波で転覆するシーンが映っていました(波が船を掴んで、逆さにして乗客を振り落とすというギャグ)。やがて波間に漂う豆粒のような人影にクローズ・アップすると、ベティさん一人、浮き輪につかまって波間に揺られています。

短いが、まことに洒落たカットである。こんな洒落たカットがもっとたくさんあれば、田舎臭いディズニイなど足もとにもおよばなかったのだが。
(前掲書p75)

とは、このシーンに対する筒井御大の弁。
 
 翌朝、孤島に流れ着くベティさん。ここでも波が生物のように描写されています。砂浜に爪を立てたり、ベティのお尻を撫でて怒られたり。波の動きが異様にリアルなため、はっきり言ってかなり気味の悪いシーン。

 さて、ベティさんは島の奥へ向かい、とりあえず誰かいないか訪ねてみます。「ハロー?」「ププッピドゥ?」と叫んでみるが、誰も応えない。なおも「本当に誰もいませんかあ?」と叫ぶと「いないよ!(no!)」と何故か、どこからともなくツッコミが。

 どうも誰もいない(?)らしいのでベティさんは着替える事にします。が、岩かと思って服を干したら実はカメ、洋服を持ってどこかへ行ってしまいます。慌てて物陰に隠れ、腰ミノをつけるベティさん。樹上の花を取ろうとして下着が見えてしまい、顔を赤くして"Excuse me"と言うのが可愛い。

 腰ミノ姿に着替えたベティさんは一曲歌い始めます。
  
 が、実はこの島には、オバケが住んでいました。ベティさんの歌を聞いてやんややんやと喝采を送るオバケたち。オバケの家が「へっへっへ」と笑いながらベティさんをむんずとつかんで飲み込んでしまいます。オバケの家に閉じ込められたベティさん。次々とオバケが出ては、彼女を脅します。この一連の場面、オバケの出現が唐突過ぎるし、ベティを閉じ込めて何がしたいのかも良く分からないし、ある意味不条理に怖い。
 
 さて、そこへ「ポパイ」のテーマ曲とともに現れたビンボー*1。美女の危機に颯爽と駆けつけ、大立ち回りの末、見事救い出します。そしてベティさんと手に手を取って島から逃げ出すのでした(リスにくるみをやって、回し車式にボートを動かさせる、という小ネタあり)。

 さて、ここで水晶玉の映像は終ります。ベティさんはいつか自分を救ってくれる、未来のヒーローに思いを馳せてうっとりしています。そこでおもむろにヒゲを取ったビンボー。「ベティ!」そう、水晶玉に映っていたヒーローは、目の前の占い師だったのです!……う〜ん、なんともイカサマ臭い話だ。でも素直なベティさんは大感激。「おお、ビンボー、あたしのヒーロー!」

 こうして、二人はひしと抱き合い、めでたしめでたし……かと思いきや、その時とんでもない事が!

 「バア!」水晶玉がバリンと割れると、予知映像の中の存在だったはずのオバケが出現!
 
 オバケがベティさんの服を引っ張って脱がせると、何故か下には腰ミノが……

 次から次へと現れるオバケから逃げ出すベティとビンボー。都会の一軒家だったはずなのに、外は南の島。何時の間にか、二人はあの予知映像そのままの世界を逃げているのでした。
 筒井康隆はこのシーンについて「話が俺好みの方向にひねってあるし」と書いてますが、まさに彼お得意のメタフィクション的ギャグじゃないですか。近作だと『朝のガスパール』のクライマックスとか。それはともかく、この場面転換の鮮やかさは印象に残ります。あれよあれよというまに、虚と実が逆転する見事さ。ここらあたりが、自分がこの作品をベストに推す理由です。

 で、ビンボーがおざなりに活躍して、オバケをやっつけてジ・エンド。まあ、ベティ・ブープものって、オチはあんまり重視されてないって言うか……大体こんな感じです。ノリが全て。
 今回の作品は、カートゥーン・ネットワークの「Late night black & white」でたまに流れています。もっともそれはオリジナル版じゃなくて、改変されたバージョンなんですが。という訳で、CNで流れているバージョンについては、次回、紹介します。

*1:もっともこの映画が公開されたのは、ポパイ映画の第一作より前です。