ベティ・ブープ"The Old Man of the Mountain"

 ベティ・ブープ紹介二回目です。前回紹介した"Betty Boop,M.D."は文句無しの傑作なんですが、残念な事に日本で見るには若干敷居の高い作品でした。そこで、今回はInternet Archiveで見られるエピソードを紹介したいと思います。
 "The Old Man of the Mountain"(邦題「ベティの山男退治」)は1933年の作品。ジャズ・シンガーキャブ・キャロウェイを全面的にフィーチャーした作品です。アニメの開幕もキャブの挨拶から。

 フライシャーは当時盛んにこの手の音楽アニメを作っていました。筒井康隆によると、映画にジャズを取り入れた先駆的な存在のようです。狂騒的なジャズと、ノリが全てでイイ意味でデタラメなフライシャー兄弟のアニメは、とても相性が良いと思います。ちなみに1932年の"Minnie the Moocher"なんかもキャブ・キャロウェイを起用した同工の短編。
 さて、話が始まるや、ライオンが慌てて山を降りてきます。どうやら恐ろしい山男が出た様子。街の住民も次々と逃げ出していきます。

 そこへ現れたベティさん。フクロウから事情を聞くものの、怖いもの知らずなのか、自ら山へ向かうと宣言、フクロウを呆れさせます。ちなみに、アニメが始まってからずっと音楽が鳴っており、皆そのリズムに合わせて行動、ベティさんも踊りながら会話してます。このノリの良さ、動物や無生物が人間と無節操に共存してたりするこの頃のフライシャー独特の雰囲気と相まって、実に楽しい。
 さて、いろいろあって山頂の洞穴にやってきたベティさん。ホーンみたいな嘴の鳥が前奏を奏でる中、”The Old Man of the Mountain!”と山男登場!

 山男の声はキャブ・キャロウェイ。洞穴の中に逃げ込んだベティさんを追って中に入り、二人の掛け合いが始まります。この雰囲気が好きなんですよねえ〜。この場面、後に作られた"Betty Boop's Rise to Fame"という作品で流用されてて、それで初めて観たんですが、一目で気に入りました。ベティと山男、非常に危険な状況なのに、歌いあいながら一緒に踊ったりして、馴れ合いみたいな雰囲気がたまらない。
 
 山男"You got to ho-de-ho"にベティさんも"You got to ho-de-ho"と応え、
 
 山男"If you do me wrong"ベティ"I'm gonna do you wrong"と、ヒゲを引っ張って応戦。よく見ると後ろに巨大な骸骨があったりして、かなりホラーな背景です。怪奇趣味もフライシャーの特色。

 ここで山男がバックスライド(ムーンウォーク)を披露。どういう方法か詳細は知りませんが(擬似ロト・スコープみたいな感じ?)、キャブ・キャロウェイの動きをトレースした見事なダンスです。単純に実写の動きを引き写しただけじゃなく、かなりディフォルメされたキャラに「翻訳」してるのが面白いと思います。フライシャーは似たようなことを他でもやってて、上でもあげた"Minnie the Moocher"でもキャブの動きをセイウチとオバQのハイブリッドみたいなオバケの動きにトレースしたりしてますが、こちらはまるで「中の人」が見えるかのようで、イマイチ。一年間で技術が向上したのか、オバQ体型ではさすがに無理があったのか、分かりませんが。

 さて、ひとしきり歌い終えた山男、一緒に踊っていたベティさんを捕まえようとします。
 山男"To get along with hey! " ベティ「キャッ!」
 山男"Hey!" ベティ「キャッ!」
 山男"Ho!" ベティ「キャーッ!」
 とうとうベティさん、洞窟を逃げ出します。追う山男。追いながらもキャブ・キャロウェイの声で歌いつづけています。歌はバブリングを含んだ、狂騒的なメロディに。

 ベティさんを捕まえる山男。しかし洋服だけすっぽ抜けてベティは下着姿で逃げつづけます。すると山男の手に残った洋服が「バチン!」と平手打ち。
 木に登って逃げたベティさん。しかし根っこごと引っこ抜くと、お手玉みたいにしながら走りつづける山男。怒って山男の鼻を押しのけるも、ベティさんはとうとう捕まってしまいます。
 そこへベティさんを助けようと動物たちが集結、山男を捕まえてしまいます。で、みんなで山男を拷問。
   
 う〜ん、楽しそうだ。この間も山男は歌いつづけてるんですが、リスに鼻を引っ張られてバチンッとされてぐったり。で、The Endです。
 今回の話は、なんといってもキャブ・キャロウェイの音楽が主役で、そういう意味では後年のPVとかにも通じるものがあると思います。その分、文章と静止画で魅力を伝えるのは難しい。前回の"M.D."みたいにとてもシュールなシーンがあるわけでもないし。できれば是非実物を見て、フライシャー独特のノリの良さを実感してもらいたいと思います。
http://www.archive.org/details/bb_old_man_of_the_mountain
 上記Internet Archiveで、ストリーム形式でもダウンロードしてでも見ることが出来ます。また、下のテクニカルスタッフ版DVDにも収録されています。

BETTY BOOP Vol.1 [DVD]

BETTY BOOP Vol.1 [DVD]