『ヒューマン-人類-』ロバート・J・ソウヤー

 前作『ホミニッド』で偶然繋がったネアンデルタール人の世界と人類の世界。二つの世界についに通路が設けられ、ネアンデルタール人のポンターは外交特使として、再び人類の世界に足を踏み入れる。
 と、いうわけで「ネアンデルタール・パララックス」二巻目。今作はレイプ犯の捜索という軸はあるものの、前作よりもサスペンス色は薄れ、ネアンデルタール人文明の描写と、彼らから見た人類社会のいびつさを描くことに頁の多くが当てられている。とは言え、相変わらずのリーダビリティの高さで、すいすい読ませられるのはさすがという感じ。ネアンデルタール文明、という着眼点はやっぱり面白い。例えば異性の配偶者以外にも同性の配偶者を持っており、繁殖期以外は同性配偶者と生活している、とか、宗教と言う概念が無い、とか、宗教観の違いが宇宙論にも影響している、とか。最新のネアンデルタール人研究の成果と、農耕の存在しない文明というスペキュレートが、ユニークな異種文明を作り出してると思う。
 もっとも、狩猟採集文明を美化しすぎているのでは無いかと思えるところも多い。例えば『人間の本性を考える』id:zeroset:20050509 の記述によれば、狩猟採集社会での戦争犠牲者の人口における割合は、普通考えられているよりも多いようで、決して平和な社会なんかでは無いのである。そこらあたりは「有害遺伝子の人為的な除去」という仕組みで説明してあるんだろうけど、そもそもそんなシステムがどんな社会で成立可能なのか良く分からない。もしかして農耕社会よりも人口増に伴う利益が小さいため、「間引き」への心理的障壁が小さかった、というところか?あと、一番疑問なのは、あれだけ少ない人口でどうやって高度な文明を築くことが出来たのか、というところ。マンパワーを特定分野に集中させた、という理由付けがあるにしても、やっぱり科学技術の発達が人口とパラレルな関係にあることは確かだろうし。
 まあ、そういう不思議なほどの楽観主義もまた、ソウヤーの妙な魅力の一つだったりする。パラレル・ワールドを繋ぐ通路がただの輪っかだとか、例によってまた「中年男女の家庭生活の危機」に拘ってるところとか、この人って、やっぱりどこか変。
『ホミニッド-原人-』感想id:zeroset:20050310