「ひとりっ子」グレッグ・イーガン:S-Fマガジン4月号

 現代最強SF作家、イーガンの新作短編。多世界解釈が生み出す、一種の倫理的(?)問題に悩む男が、量子コンピュータを使って行った実験の顛末を描く。
 あちこちwebをまわってこの作品の評判をいくつか読んでみたけど「主人公のこだわっている事が実感として共有できなかった」という様な意見が多かったような気がする。山本弘氏も「パラレルワールドなんて子供の頃から知ってたので、主人公がなんで悩んでいるのか良く分からない」という様な事を書いてたし。う〜ん、そうかなあ。自分、似たようなことをずっと考えてたんで、主人公の気持ちはよぉく分かるんだけどなぁ。何か上手く行った事があったとして「ああ、俺はここでは成功してるけど、並行宇宙では失敗してるヴァージョンの俺がいるんだろうなぁ」なんてこと考えてたりしてたんだが、こういう人間は少ないんだろうか。
 正直言うと、最も重要なガジェットであるクァスプの原理、自分の頭では理解しきれなかった……というかほとんどお手上げ状態。くあー、難しすぎる!大体ネズミの実験の意味ってなによ?……なんて、四苦八苦しながらもラストまで来ると、何故かおぼろげながらにも作者の言いたいことが分かってくるのが、イーガンの凄いところ。アダイ(人工知能)の少女ヘレンが最後に口にする言葉は、実にイーガンらしい、鋼の決意を込めた言葉と言えるだろう(で、こういう言葉をロボット少女に言わせるところが、また萌えるんだよなあ)。