『異形の惑星―系外惑星形成理論から』井田茂

異形の惑星―系外惑星形成理論から (NHKブックス)
 ぞくぞくするような知的興奮を味あわせてくれる本。まず、白鳥座61番星やバーナード星の惑星が幻だった、という記述にはびっくりした。いやぁ自分の知識って、本当に昔のモノだったんだな、と。これら昔の技術で発見された系外惑星はことごとくその後の調査で存在を否定されており、95年頃には太陽系以外に惑星系など見つからないのではないか、我々の住む「惑星」などというもの自体が宇宙でも非常に希少な存在では無いか、などという悲観論すら一般的だったという。
 ところがペガサス座51番星に、今度こそ本物の惑星が発見されたことで風向きが変わる。それから次々と発見された惑星は、それまでの常識を覆す「異形の惑星」ばかり。水星軌道のずっと内側、灼熱の恒星直近軌道を高速で公転する巨大ガス惑星「ホット・ジュピター」。巨大惑星であるにもかかわらず、彗星の様に極端な楕円軌道を取る「エキセントリック・プラネット」。
 これらの惑星の発見により、それまでの惑星形成理論は修正を余儀なくされる。恒星の周りを回るガス円盤から惑星が出来たというのに代わりは無いが、ガス・塵・微惑星が相互作用により惑星を形成していく様子は摩擦力、重力、潮汐力、時には電磁気力まで加わって、一種の複雑系を形成する。それだけにシミュレートしがいもある様だが、実際にコンピュータによって予測された惑星の動向は、これまた実に異様で面白い。相互作用により系外に弾き飛ばされる惑星(こうした何処の恒星にも属さない放浪惑星が、結構な数存在するかも知れない)に、出来る端から次々と恒星に飲み込まれていく惑星(もしかしたら現在の地球は、太陽に飲み込まれていった数々の「先代の地球」の果てに、最後に残った一つなのかもしれない!)。
 そして、地球の様な生命にあふれた惑星は、宇宙でも特別な存在なのか?という興味深い問題にも、著者は惑星形成理論から推察していく。太陽から程よい距離を保ち、大気を保つに適度な大きさを保ち、プレート・テクトニクスにより適度な二酸化炭素濃度を保ち、木星の存在により彗星から守られ、巨大衛星である月を持つことで安定した季候を保つことが出来た地球。一見数々の幸運により奇跡的に保たれたかと思われる生命発生条件が、実は惑星の発生条件によっては、自動的に揃えられて行くものかも知れない、と著者は推察する。その場合、銀河系に存在する生命居住可能な惑星の数は、飛躍的に増えることになるのだ。その中には、知的生物も……?
 惑星の形成は力学的に非常に複雑な過程を経て行われるが、著者は難しい数式などは極力使わず、平易な文章で解説してくれて分かりやすい。また、挿話的に挟まれる著者が実際に出合った科学者達の素顔も、ビビッドな現場を伝えてくれて楽しい。伝えたいことが多すぎてゴチャゴチャした印象を受けるのも確かだが、それが逆に、新しいことが起こりつつある分野特有の熱気を伝えてくれるとも言える。SF好きな人には特にお勧めしたい一冊。