『ホミニッド−原人−』ロバート・J・ソウヤー

ホミニッド-原人 (ハヤカワ文庫SF)
 ネアンデルタール人が高度な文明を築いた並行宇宙の地球。量子コンピュータの実験をしていた物理学者ポンターは、突如として見知らぬ世界に転送される。そこは絶滅したはずのクロマニヨン人の世界だった!
 ソウヤー作品って、イーガンみたいな深みは無いけど、とにかく読んでいて楽しい。ファースト・コンタクトに来た宇宙人を殺人罪で裁判にかける『イリーガル・エイリアン』。タイムマシンで中生代に行ったらいきなり恐竜が**だしてその正体は***だったという『さよならダイノサウルス』。基本アイデアは荒唐無稽なのに、語り口自体は割と真面目だったりするのが可笑しい。あと、妙に奥さんが浮気する話に拘ってみせたり、笑えないギャグが間に挟まってたり、どうも天然ボケっぽい感じもしたり。
 本作も相変わらずリーダビリティが高いので、あっという間に読了してしまった。ポンターと科学者たちの交流を通じてネアンデルタール人の特異な文明が少しずつ明らかになる「こちらの世界」のパートと、失踪したポンターの殺害容疑を掛けられた彼のパートナーを描く「ネアンデルタール人の世界」のパートが交互に描かれるという構成。とはいえ基本的にはポンターの帰還を巡るサスペンスよりも、我々とは異なる道を辿った文明の可能性を描くことの方が主眼となっている。もっともその割には、ポンターの心理描写は現代欧米人のそれと大して変わらないのだが。これは『イリーガル・エイリアン』や『スタープレックス』での宇宙人の描写にも言えることで、どうもソウヤーは異質な心理というものを描く気が無いようだ。この辺、娯楽性を重視してあえてやってる様にも、欧米人らしい視野狭窄ぶりにも見える。まぁ、両方入ってるんだろうな。もっとも個人的には、そいうところもソウヤーらしいヘンさとして楽しんでるんだが。
 あと、並行宇宙を移動するための大元のアイデアが、荒唐無稽というよりは都合が良すぎるという感じなのは結構気になる。この辺りはシリーズが進むに連れて、納得のいく説明が付くことに期待したいな。それこそ意識と量子論の問題が絡んでくるのかも知れないし。
 肩の凝らない、それでいてSFらしいSFをコンスタントに書いてくれる、ソウヤーらしい作品でした。