パワーパック、Uncanny X-MEN#205、バリー・ウィンザー・スミス

zeroset2005-01-27

 Read Me! GIRLS!経由での情報だが、日本人アーティストのグリヒル氏がパワーパックのミニ・シリーズを担当することになったそうだ(だらだらグリヒル日記)。Planet Comicsでも連載しているこの人の絵はポップで好みなので、結構嬉しい。
 さて、自分がパワーパックのことを知ったのは、ご他聞にもれず小プロの翻訳アメコミシリーズの解説からだった。向こうにも子供のヒーローがいるんだなぁ、とちょっと意外に思ったのを覚えてる。それ以来なんとなく気にはなっていたのだが、初めて彼ら(のメンバーの一人)の活躍するのを見られたのは、しばらく経ってから同じ小プロのMarvelX8号に"Uncanny X-MEN#205"が掲載された時だった。このエピソードはMarvelXに訳出された傑作群のなかでもかなり好きな部類に入る話で、後に原書のリーフをわざわざ買いなおしたりもした(もっとも、オリジナルじゃなくてリプリント版だが)。
 超合金アダマンチウム発明者の娘、オーヤマ・ユリコはスパイラルの施術によりサイボーグ、レディ・デスストライクとして生まれ変わる。吹雪の中、デスストライクとサイボーグ傭兵たちはウルヴァリンを駆り立て、追い詰めていく。獣性を剥き出しにして本能だけで逃走するウルヴァリンは、パワーパックのメンバー、キャティ*1と再会するが……と、いう様なストーリー。
 アーティストはバリー・ウィンザー・スミス。初めてこの人の作品を読んだのは小プロ版『ウェポンX』だったが、初見の印象は決して良いものでは無かった。当時、自分にとってアメコミと言えばジム・リーで、あの手のカッチリした線とハッタリの効いたポーズ・画面構成を格好良いと見る美意識からは、この人の絵はどうにも野暮ったく見えたのだ。そもそもウルヴァリン、筋肉がモコモコしててカッコワルイし、なにより女性キャラがエロくないし! …しかし、何回か読み返してる内に、だんだんこの絵に惹かれていく様になっていった。冷たく、感情移入を拒否するようでいて、どこか内から湧き上がってくる激情を秘めているようなキャラクターたち。全体的に、なんか線が多すぎて煩いなぁと思っていたタッチだが、その画面から緊張感を読み取れるようになると評価は一変した。これもまた一種の洗練なんだな、と。
 "Uncanny X-MEN#205"は一話完結、短い尺のお話ながらも、バリー・ウィンザー・スミスのアートを存分に堪能することができる。冒頭、デスストライクの屈折した情念とそんな彼女を冷ややかに見つめるスパイラルの対比もいいし、大雪の中を裸でさ迷うウルヴァリンキャティが見つけ、勇気を振り絞って*2助け起すシーンも好きだ。芯まで凍えきった体に触れる、暖かな子供の体温までも感じ取れるかの様な……。そしてなんと言ってもこのエピソード、キャティが無茶苦茶可愛い!
 パワーパックの出るエピソードは、他にも"X-Men: Mutant Massacre (X-Men (Marvel Paperback))"やアニュアルなどで少しだけ読んだことがある。前者ではミュータント虐殺という陰惨な事件の中、子供だてらにセイバートゥースやアークライトを翻弄する姿はちょっとした救いだった。
 まだアニメやカートゥーン風の絵も全然主流じゃなかった時代、大人だらけのヒーロー・コミックスの世界で頑張るパワー家の兄弟たちの姿は、いじらしさのみならず、どこか不思議に悲劇性すら感じさせた。今回のミニ・シリーズ、お子様ヒーローのエポックとも言えるパワーパフガールズを経た現代において、彼らがどんな新しい活躍を見せてくれるかを楽しみにしたい。

*1:コードネームはエナジャイザー。年齢は5歳で、全員子供のパワーパックの中でも最年少メンバー。物質をエネルギーに変換する能力を持つ。

*2:なにしろウルヴァリンは野獣同然な状態なのである。