『ブランコのむこうで』星新一

ブランコのむこうで (新潮文庫)
 自分たちが小学校高学年の頃、皆で読んでる定番の本と言えば星新一北杜夫の本だった。自分は『妄想銀行』とか『ドクトルマンボウ航海記』とか買ってて、友達の持ってる『ボッコちゃん』や『ドクトルマンボウ昆虫記』などと取替えっこして読んでいた。この『ブランコのむこうで』もそんな風にして読んだ記憶がある。ところで、最近の小学生はどんな本を読んでるんだろうか。ラノベ?それともハリー・ポッターなどなのかな。
 さてこの本、小学生以来随分長い間再読してなかったが、先日本屋で、随分可愛らしい表紙に変わった新装版を見かけて、思わずレジに持って行った。星新一の本といえば真鍋博和田誠のイラストと決まっているのだが、新装版のイラストもこれはこれで良いと思う。もっとも、昔強い印象を受けた、本文中の抽象的なイラストは変わってなくて、これには安心したが。
 学校の帰り道、自分にそっくりな少年を見かけたことから、夢の世界に入り込んだ「ぼく」。死んだ息子を夢の中で探す女性。嫌な上司を夢の中で処刑している男。理想の“何か”を求め、夢の中で彫刻を彫りつづけた老人。様々な人々の夢を渡り歩く「ぼく」の物語。
 こういう「理に落ちた」ファンタジーはあまり好みじゃ無いはずなんだが、この本に限っては夢中になって読めた。懐古的な感情もあるんだろうが、星新一ならではの達観と乾いて上品な筆致が、教訓臭を限りなく薄めてるせいもあるのだろう。それでいて、全体のトーンは優しい。小学生の頃に、こういう小説が読めて、本当に良かったと思う。