「ヴァート」ジェフ・ヌーン

ヴァート (ハヤカワ文庫SF)
 ヴァート、それは新種のドラッグ。同時にヴァーチャル・リアリティであり、ゲームであり、時には知識を与えたりもする。ヴァートの使い方は、実に簡単。羽の形をしたそれを咽喉に差し込むだけで、幻覚の世界に行くことが出来るのだ。しかし、黄色いヴァートには気を付けなければならない。それを使って行く幻覚世界は、現実世界と等価なのだから。主人公、スクリブルは幻覚世界にデズデモーナを置き去りにしてしまう。この世で最も愛する妹を・・・。
 買ったきり実家に10年近くも放り投げてあったんだが、なぜか今ごろになって読んで見た。
 幻覚が現実世界を浸食して云々、といった話と言うと、どうしてもディックを思い浮かべてしまうけど、この作品、ディックほど狂ってる訳では無い。といって整合性に拘ってるわけでもなく、要するに言葉は悪いが、いいかげんな感じ。主人公も妹を取り返すために全てをかける!てなこと言ってたかと思えば、あっさり諦めてDJやってたり、自分を慕って付いてきたょぅι゛ょを見捨てて逃げ出したり、いいかげんな事この上無い。ストーリーも、ぐいぐい引っ張っていくようなドライブ感があるわけじゃ無く、のんべんだらりと進んでいく。
 かといって、つまらなかった訳でも無く。なんというか、結構人によって好みが分かれそうなんだが・・・個人的には割と楽しんで読めた。決してお話として出来が良い訳ではなく、登場人物に魅力がある訳でもない。何か考えさせられるようなテーマを扱ってる訳でもない。とりあえず、幻覚世界からの侵入者である「夢ヘビ」「宇宙から来た物体」とか、犬やロボットと人間のハイブリッド、そして色とりどりの「ヴァート」・・・これらのガジェット(これまた雰囲気優先という感じで、あまり大した意味がこめられて無さそうなんだが・・・)がおりなすカラフルな世界観に魅力を感じることが出来る人は、楽しめるんじゃないかと思う。