「赤毛のアン」と妖精ブーム

 今回のアン、少女と妖精という組み合わせで「コティングリー妖精事件」を連想したのは自分だけだろうか。これは1916年、イギリスはコティングリー村に住む二人の少女が、妖精の写真を撮ったとして、一大センセーションを巻き起こした事件である。二人の撮った写真は、コナン・ドイルを初めとした知識人をも巻き込んで、妖精の実在論争を引き起こした*1
 その妖精写真事件が起こった背景として重要なのが、ヴィクトリア朝時代の一大妖精ブームである。この時期、数多くの妖精画が好んで描かれ、詩に詠われた。現代でもおなじみの、昆虫の羽根を持ったフェアリィも、実はこの時代に定着した図像だったりする。
 19世紀なかばから20世紀初頭にかけて、産業革命により先進国で急速に合理化・都市化が行われ、価値観も大きく変化した。こうした時代状況で、急速な変化にとまどう人々の懐古的・逃避的な渇望を掬い取ったのが「妖精」や「心霊現象」*2だったのだろう。
 と言う訳で、こういう時代背景を頭に入れて、今回のアンを見ると、より興味深い…かな?

*1:もっとも、現在の目で見ると「妖精」はただの紙に描いた絵にしか見えないチャチなものである。しかしコナン・ドイルを初めとする妖精肯定派は、妖精が静物にしか見えないのも、違う次元や時間に住む生き物だから当然、と理屈付けた。また、当の少女達も1980年代になってから、あれは悪戯だったと認めたが、ググって見ると分かる様に、未だにこの写真を信じている人もいる。どんな嘘くさいモノでも、一度本当の事として流布してしまうと、いかに打ち消すのが大変かを示す、良い事例。

*2:この時代には心霊ブームも起こった。