「バットマン:キリングジョーク―アラン・ムーアDCユニバース・ストーリーズ」アラン・ムーア

ISBN:4902314266
 定価3200円。高い!もう翻訳アメコミって、マニアだけを相手にして商売せざるを得ないということが良く分かる値段。正直、買うのに勇気がいった。しかし、読み終えた今は完璧に満足してる。
 この本は、アラン・ムーアがDCコミックスでやった原作仕事を集めたもの(日本独自編集)。アラン・ムーアといえば男泣き超名作「WatchmenISBN:4073096907(今では入手困難だが、何とかして読んで欲しい!)だが、ここに集められた作品も、小粒ながらも情念にあふれた、素晴らしい作品ばかりだ。アメコミを単にマッチョなヒーローが暴れるだけのマンガと思っている人がいたら、是非読んで欲しい。高いけど。
 意外と良かったのがパニッシャーの亜流ヒーロー「ビジランテ」。このビジランテパニッシャーと違って、なんか弱い。精神的にも肉体的にも。で、なんかマヌケ。コスチューム着たままウロウロしてるし、ド派手なヒーローバイクを乗りまわしてたと思ったら、駐車した途端に盗まれてるし。終いにはただの中年男に殺されかける始末。でも、愛してると言いながら幼い娘に近親相姦を無理強いする父親(しかし、口先じゃ無く本当に愛していながら、相手を傷付けてしまう、というのが双方にとって悲劇的)、ヤク中女、売春婦・・・といったダメな人、どうしようも無い人達ばかり出てくるこの物語には、実に似合ったヒーローだと思う。
 そして表題作「キリングジョーク」。ゴードンを誘拐し、フリークスの住む遊園地に軟禁するジョーカー(彼を発狂させるために、娘のバーバラ*1の腰部を撃って下半身不随にしたあげく、陵辱して写真を撮って見せつける、というのが凄まじい)。これも全て、この世が不条理に満ちている事を、全てがブラックジョークである事を証明したいが為だった。フラッシュバックされるジョーカーの過去。悲惨な人生を送った男がジョーカーとして生まれ変わった時、この世の全てを笑い飛ばしてやることに決めたのだ。
 結局、バットマンの活躍でジョーカーは捕まる。そしてバットマンはジョーカーに、(ヒーローらしい)慈愛に満ちた言葉を投げかける。どんな不幸がおまえの人生を狂わせたか知らないが、私がその場にいれば、おまえを助けてやれたかも知れない。だから苦しみを一人で背負い込むな、と。しかし、ジョーカーを狂わせた不幸とは、まさにそのバットマンによってもたらされたものなのである。これこそ、最大のブラック・ジョーク。

すまねぇ。けど・・・
ダメだ。遅いよ。遅すぎるぜ・・・
なんか・・・笑えるよな・・・いつか聞いたジョークみてぇだ・・・
(p51)

 ラスト、雨の中で笑いあう、二人の「狂人」の姿が印象的だ。
 後、解説がとても詳細で良い。ただ、ノンブルが無いので、解説と本編を参照させにくいのには困った。目立たない所で十分なので付けて欲しかったところだ。

*1:彼女はバットガールとしても活躍した