「幻想の犬たち」ジャック・ダン、ガードナー・ドゾワ編

幻想の犬たち (扶桑社ミステリー)
 犬に関するSFやファンタジー、ホラーなどを集めたアンソロジー。といっても、選者の名前を見て分かるように、基本的にはSFよりのラインアップである。『ルーグ』『逃亡者』『最良の友』『少年と犬』は再読。
 それなりの水準の作品が集まっているはずなんだが、いまいち楽しめなかったのは何故なんだろう。訳者あとがきを見ると、選者はバランスを考えてあえて様々なスタンスの作品を選んだというが、犬と人間のベタベタな友情物語とか、逆に不浄の魔物として思い切りオドロオドロしく描いた作品とか、もっと極端な作品が載っていても良かったように思う。SF中心で戦後の作品のみ、という縛りが、この場合は悪く働いたような気がする。
 あと、犬の知能を増大させる、という設定の作品がいくつかあるのだが、なんでどの作品の犬も、ああも人間的過ぎるんだろうか。人間とは異質な知性としての犬を、突き詰めて描いた作品があっても良いと思うのだが。
 個人的なベストはやっぱり、ハーラン・エリスンの『少年と犬』。ある意味、上記に挙げた「ベタベタな友情物」であるしね。後、シマックの『逃亡者』も良かった。まぁ、中学生時分での初読の印象が良く見せてるのかも知れないが。木星のエキゾチックな描写が素晴らしい。古い作品であることは確かなんだが、良い具合に熟成した感じ。
 マイクル・ビショップの『ぼくと犬の物語』はヴォネガットスローターハウス5」とかテッド・チャンあなたの人生の物語』みたいな人生モザイク小説。上記の作品と比べるとひたすら「甘い」小説で、良い意味でも悪い意味でも唖然とした。最後に主人公がたどり着いた惑星、犬好きの人間にとってはパラダイスなんだろうなぁ。
 アルジス・バドリス『猛犬の支配者』は強面のSFを書くという印象の作者としては、ちょっと意外なサスペンス。読んで連想したのは筒井康隆『乗り越し駅の刑罰』だった。画家や小説家である故に、世間に対し無意識的に罪悪感を持っている(それを象徴するのが母や妻たちの態度)主人公が、「実」の世界を代表するような者(駅員とか退役軍人)から理不尽な目に合うという物語。不条理な話なのに、どこか筋が通っているように見えるのが恐ろしい。もっともバドリスの小説は筒井の程ねちっこい話じゃ無いので、読後感もあっさりしてるのが救いだが。
 ちなみにこの短編は「ドーベルマン犬の島」というテレビムーヴィーになったらしい。これ、どこかで聞いたことあるな、と思ったら、1テーマ時代の映画秘宝「日常洋画劇場」に簡単な記事があったのだった。あまり出来は良く無さそうだが、主人公のなんとも冴えない面がイイ味だしてた。こりゃ、苛めたくもなるわなぁ。