『人形アニメーションの魅力 ただひとつの運命』おかだえみこ

 映画評論家、おかだえみこによる人形アニメの紹介とエッセイの本。帝政ロシア時代にリアルでグロテスクな昆虫アニメを作ったスタレーヴィチ、彼から始まる、世界の人形アニメの歴史と代表作品を一望することができる。
 自分がこの著者を知ったのは、鈴木伸一高畑勲宮崎駿との共著*1『アニメの世界』(ASIN:4106019566)だった。ノルシュテイントルンカなど非商業アニメから、ディズニー、ワーナー、UPA、そしてガンダムナウシカなどの日本アニメまで。これらまったく肌合いの違う作品を、特定のジャンルに偏ることなく、それぞれに深い愛情をこめて紹介していたのが、強く印象に残っている。もっとも著者の好みでない作品については、身も蓋も無い紹介だったり等、筆致が素直すぎるために、書評では「個性が強すぎるので、入門書としては相応しくない」などと苦言を呈されていたが……。
 この本も、いかにもおかだえみこらしい思い入れたっぷりの文章に、心をひかれる。心優しい巨匠ゼマン。トルンカ真夏の夜の夢」の魅力……「どんな人間でも、一生に一度は自分が思っているより偉大になれるものなのです」。満映から戦後八路軍に同行し、日本と中国、両国の人形アニメの創生に関わった持永只仁。岡本忠成「おこんじょうるり」の、可愛い見かけとは裏腹な、厳然たる真理のむごさ。
 ただひとつの運命、という副題は、川本喜八郎の言葉「人形はたった一つしか運命を持っていない」による。人形は役割を演じ終わると本当に死んでしまう、とおかだは言う。アニメーションと言う虚構の世界を演じながらも、現実の世界に片足を残している両面性こそが、人形アニメの最大の魅力だろう。

人形 (パペット) アニメーションの魅力

人形 (パペット) アニメーションの魅力

はてな年間100冊読書クラブ 42/100)

*1:ただし後者二人は寄稿程度の関わり。