『図解 人工生命を見る』高間康史

 1998年に刊行された人工生命の入門書。人工生命と言っても、血肉を備えた生物を作り出すものでは無く、専らコンピュータ上でシミュレーションされた生命のことである。
 セル・オートマトンやライフ・ゲームについて、以前からおぼろげな概念は知っていて、例えばグレッグ・イーガンのSF「ワンの絨毯」や『順列都市』ではこれらの概念が重要な役割を担うのだが、それらのアイデアを理解できる程度には理解していたと言えると思う。とは言え「それが何故『生命』と言えるのか」「いったい何の為にそういう研究がなされているのか」といった事はちんぷんかんぷんだった訳で、この本を読んで初めて納得が言った次第。初心者にも非常に分かりやすく書かれていて、こうい方面に興味のある人にはお勧めだと思う。ただ反面、非常に総花的で話題が多岐にわたっており(たまごっちとかPSゲームの「がんばれ森川くん2号」といったものにまで言及されている)、それぞれのトピックについて本当に触りだけしか知ることが出来ないという不満はある。あと最大の欠点は、これが書かれてからもう8年も経ってしまったということだろう(Amazonではもう新刊を取り扱ってない様子)。コンピュータの世界ではもうふた昔くらい前の話なのである。そういう意味では現在読む意味のあるのは第2章と第3章くらいなのかもしれない。
 コンピュータ上でシミュレートされる生命には、盤上で「隣の升目にコマがあれば、次のターンもそのコマは生きている」といった極々簡単な規則に従ってコマが増減しているだけの様に見えるものがある。その「生命」を律するのはとてもシンプルな規則に過ぎないのだが、ちょっとしたパラメータの違いで盤上からコマが消滅するかと思えば、一方で、変化しつづける非常に複雑なパターンを描いたりもする。そう、人工生命研究の目的でもっとも大きいものは、カオスの中から「複雑だが秩序あるもの」がどのようにして生まれるか、その仕組みを明らかにするところにあるのだ。それは無生物から生物が発生し次第に複雑な生態系を築いていく「進化」の仕組み、また雑多な情報の中から生存に必要な情報を選び出す「認知」の仕組みを解明する助けともなるのだろう。

図解 人工生命を見る

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