『ファインディング・ニモ』

 ピクサー制作のCGアニメーション5作目。ダイバーにさらわれた息子、ニモを探すカクレクマノミ、マーリンの冒険物語。公開当時はかなり話題になりましたね。今更ながらレンタルで視聴。
 ピクサー社のアニメって、ストーリー的にも映像的にも良く出来ているんだけど、そのあまりのソツの無さに、なんとなくハマれないものを感じてた。最新作の『Mr.インクレディブル』もそうで、題材は面白そうだしイラスティ・ガールみたいに好みのキャラもいるんだけど、イマイチ夢中になれない。どこか覚めた目で見てしまう。やっぱり映画は出来が良いだけじゃなくて、ある種の「狂気」を孕んでなきゃ没入しにくいな、と思った。それは制作者側のオブセッションでもいいし、登場人物自身の設定としての「狂気」でもいいんだけど。
 と、前フリをした上で、この映画にはハマりましたよ、と。その理由は、登場キャラクターの一人であるドリーにある。いやあ、凄く良かったんですよ、ドリー。能天気で調子のいい女性、いわゆる「おバカ」キャラで、心配性でちょっとヒステリックなマーリンとのコンビは、まるっきりデクスター&ディーディー。自作の歌をがなりたてて、マーリンに「うるさーい!」と怒られるシーンなんて、ディーディーそのものですよ。制作者は意識してたのかな?それにこの二人、種族が違うせいもあって、男女ペアであるにも関わらず恋愛関係になってしまう気遣いが無い。これもいいですね〜。純粋に男女間の友情と絆が描かれるわけで、こういうの、好きなんだ。
 でも個人的に一番のポイントはドリーの一種の「狂気」にある。実はドリーは病的な健忘症で、どんなことに関しても、長時間記憶を保つことが出来ないのだ。ずっと一緒にいた相手でも、3秒も経つともう誰が誰だか判らなくなってしまう。だからマーリンとの会話はいちいち噛み合わなくって、ほとんどシュールの域にまで達してて面白い。
 でもそんなドリーだからこそ、終盤で初めて自分の気持ちを吐露する場面には―親の顔も友達の顔も覚えていない、一切の「思い出」を持たないからこそ、今の記憶を忘れたくない、忘れないために一緒にいて欲しい、と懇願するシーン―には、胸を突かれるような思いを抱かされるのだ。やっぱり自分は「記憶」を巡る物語に弱いんだな(単に年取ってセンチになってるだけなんだろうけど)。
 と、いう訳でこの映画、ピクサー社の作品では個人的に一番面白かった。本題であるマーリンとニモの親子関係を巡るストーリーも上手く出来ていて、当時話題になったのも良く分かる出来です。
 ……でもやっぱりこの邦題、なんとかならなかったのかなあ。日本語として語呂悪すぎ。『ニモとマーリンの大冒険』でもいいじゃないか、と思う自分は古いのだろーか。

ファインディング・ニモ [DVD]

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