『ニムの秘密』について

zeroset2005-06-15

 ディズニーで『ビアンカの大冒険』などを手掛けていたアニメーター、ドン・ブルースやゲーリー・ゴールドマンが独立して、初めて造った映画がこの『ニムの秘密』。1982年に米国で劇場公開、本邦未公開かな? だから、日本じゃ非常にマイナーな映画なんだけど、実はこれ、大好きなんだよなあ。いや、完璧とかすごく出来が良い、と言う訳じゃないんだよ。むしろ八方破れなんだけど、でも、ところどころに凄く光る部分があって、そこがあまりに魅力的なので忘れられない一本になっている、そういう作品。
 リアルだけどダイナミックなアニメート技術、ジェリー・ゴールドスミスによる美しいスコア、などなど素晴らしいところはたくさんあるが、まずは設定について。遺伝子操作により知能を増進させられたネズミを主題としており、言わばサイエンス・ファンタジー風味の『ウオーターシップ・ダウンのうさぎたち』というところか。壮大さと親しみやすさが同居しており、とても個性的で心に残る設定だと思う。
 ただ、こんな感じで物語の枠は良いんだけど、中身に問題大有りなんだよな……格調高い動物版エピック・ファンタジーになるかと思いきや、「ネズミ一家の引越し大騒動」に物語が収斂してしまうのは、なんというか、トホホというか……。
さて、この映画を語る上でもう一つ、忘れちゃいけないものがある。主人公のミセス・ブリスビーだ。ネズミ、しかも子持ちの未亡人、だけど萌えるんだよ!『ターザン』のエントリで「官能的」と書いたけど、艶っぽさならブリスビー夫人も負けてなかったりする。独身カラスのジェレミーとの掛け合いは、日本版吹き替えの上田みゆき富山敬の演技の上手さもあって、なんともムズムズするような会話なんだよなあ。

「奥さん、オレの事……好き?」
「ええ、とっても感謝しているわ」
「いやそうじゃなくって……なんて言ったらいいのかな……オレって恋人もいないしさ。どうやったら女の人にもてるのかな、って思って……」
「あらジェレミー……ウフフ、あなただってきっといい女の子が見つかるわよ」

Art of Animation Drawing
 記憶に頼って書いているので細部に間違いはありそうだが、こんな感じ。ああっ、なんて会話!
 概してディズニー長編では人の死を直接的に見せることを避けるものなのだが、この作品のキャラは怪我をするとちゃんと真っ赤な血を流すし、ナイフや剣に刺されて死ぬものもいる。また、透過光の効果的な使い方(『天空の城ラピュタ』の飛行石エフェクトは、絶対影響受けてると思う)など、ディズニーのやらないこと、出来ないことを積極的にやってやろう、という気概をも感じるものがある。それだけに、結局はお子様向けムービーとしての枠を出ないままこじんまりとまとまってしまったのが、本当に惜しい。これでお話が大人向けにきちんとしていて、大ヒットでもしていたら、アメリカのアニメは今どうなってたろうか……なんて屋上屋を重ねるような空想をしてしまうくらい、このアニメの持っていた潜在的な可能性の大きさに思いを馳せてしまうのだ。


 と、いう訳で『ニムの秘密』の簡単なまとめページを作ってみました→[id:zeroset:00000501]。これからも漸次、充実させていければ、と思っています。

Secret of Nimh [VHS]

Secret of Nimh [VHS]