『星の島のるるちゃん』ふくやまけいこ

星の島のるるちゃん1 (ハヤカワJA)
星の島のるるちゃん2 (ハヤカワ文庫JA)
 ふくやまけいこの「なかよし」連載作品の文庫版。なかよしコミックス版を持っていたので買うつもりは無かったんだが、このあたりを読んでたら、また無性に読み返したくなったので。それにしても『オリンポスのポロン』といい、最近の早川コミック文庫って渋いけれどもツボを突いたナイスセレクション。ふくやま作品を続けて出すなら、今度は『エリス&アメリア』あたりを、是非。
 実を言うと、これを初めて読んだときの印象はあまり良いものでは無かった。なんというか、後期名劇アニメにも通じる違和感というか……作者の頭の中に「子供向けの正しい物語」というものが端からあって、それに沿って描いてる様な感じがする。定型的、と言うと言い過ぎかも知れないが。また同時期の『レイニー通りの虹』なんかを読んだときにも思ったことだが、初期の、それこそミリペンで描いてた時期の作品にあった「昏さ」が、描線が流麗になるのと引き換えに失われてしまった(様に感じられた)のも残念だった。
 ただまあ、こうして10年振りくらいに読み返してみると、割とそういうことは良くなってたりする。ただただ可愛いなあ、と。年を取って細かいことはどうでも良くなったのかも、とは思うのだけれど、それ以上に、書き下ろしの最終話の印象が良かったということがあるのかも知れない。人間のエリちゃんの「代わり」として作られた、ロボットのエリちゃん。人類全体を巻き込む大きなスケールの話が、彼女の「想い」を軸に収束していく展開が小気味いい*1。なにより、これがあることでまとまったというか、話としても読んでる側の感覚としても腑に落ちた、という感じがあるし。これこれ、こういうのがふくやま作品の魅力なんだ、こういうのを読みたかったんだ、と思ったのだった。

*1:SFオンラインでの水玉螢之丞によるインタビューで、ふくやまは手塚治虫の『W3』をフェイバリットにあげているが、そういえばこの話の展開はちょっと『W3』を思わせるところがある。