ベティ・ブープ:ベティさん?それとも別人?

zeroset2005-01-13

 ここのところsoaplandさんの名称なんかどもでもいいで「ベティ・ブープ」シリーズの紹介がされてます。昔のカートゥーンなんかに興味ないよ、てな方も是非一度覗いて見てください。このシリーズの魅力をソフトな、しかし説得力ある語り口で十二分に伝えており、素晴らしい紹介文です。また、フィルモグラフィは名著『ベティ・ブープ伝』巻末のリストを基本に、日本発売ソフトや森卓也著『アニメーション入門』での邦題を附し、IMDbへのリンクも貼ってある、という丁寧な労作。次回、次々回でもこのシリーズについて書かれるそうなので、楽しみにしています。


 さて、ここから本題。先のリストには載ってないけど、ベティさん公式ページのフィルモグラフィやアメリカでのビデオ版全集"Betty Boop: The Definitive Collection"には収録されている、という作品が実はいくつかある。その中の一つ"Any Little Girl That's a Nice Little Girl(1931)"は「主人公のガールフレンドの写真の中に、ベティに似た女性がいる」という程度の「なんでこれが入ってるんだよ!」と言いたくなる作品なので、リストに入ってないのもむべなるかな、という感じではあるのだが、なかにはちょっと微妙な話もある。例えば"The Robot (1932)"がそうだ。
Betty Boop's May Party [VHS]
 ストーリーはこんな感じ。ロボット・カーを発明したビンボーは、恋人を誘ってデートに行く。「拳闘選手に勝ったら賞金を差し上げます」てな張り紙を見たビンボーはロボット・カーに乗って試合に乱入。見事選手に勝って(ちと卑怯な気がするんだが……)、控えの選手全員に「かかって来い」と挑発、一斉に飛び掛ってきた選手全員を倒して、そのまま街中をパレードして、めでたしめでたし。
 さて、このビンボーの恋人役がベティに似ているのが問題なんである。シーンによって微妙に違ってて、全然似てないこともあるが、特にロボット・カーに水を含ませるシーンなんかはかなりベティっぽい。ただしIMDbのサマリーでははっきりと"girlfriend (not Betty)"と否定している。確かに1932年と言えば既にベティさんのキャラクターが確立、単独でのシリーズも1931年には始まっている。そういう点から類推すると、ベティとは別人とも思えるのだが……。
 ただ気になるのが、これに出てくるビンボーが白い体色の親父っぽい顔をした犬であるという点。1932年時点でのビンボーとは明らかに顔が違う*1。実はこのビンボーに一番似ているデザインが1931年5月制作の"Silly Scandals"のビンボーで、もしかしたら制作時期もこの頃だったのでは無いだろうか。この頃はまだベティのキャラクターも確立しておらず、4月制作の"The Bum Bandit"(こちらはリストにも載っている)などは、性格的にも後のベティと同じキャラとは思えなかったりする。この頃のカートゥーン・スター達は無名の状態から、激しく性格や容姿を変化させつつ、キャラクターを確立していった者が多く、出自がはっきりしないことが多い。"The Robot"のヒロイン役がベティさん本人かどうか、トゥーン・タウン*2の住人にも分からない事なんだろうけど、少なくともプロトタイプの一人であったことは間違いないと思うのだが、どうだろうか。
 この作品に出てくるロボット・カーは車両形態から二足歩行形態に変形する。もしかしたら映像史上初の変形ロボなのかも知れない。当時最新鋭のテクノロジーだったテレビジョンも出てくる。ベティ云々は別にしても、後の「メカニカル・モンスター」にも通じる、フライシャー兄弟のメカニック趣味が興味深い一本だ。

*1:初期作品のビンボーは出てくるたびに違うデザインで、とても同一キャラとは思えなかったりする。

*2:ロジャー・ラビット(1988)。