『ハウルの動く城』

 宮崎駿の最新作を観てきた。まだ観てない人は、ネタバレ注意のこと。
 それにしても、う〜む・・・・・・なんだか感想を書きにくい映画だな。中盤くらいまではかなり面白い。ソフィーがだんだん老婆としての生活に慣れていく過程とか、ハウルの城内に入り込んで掃除をしたりするシーンとか、何でも無い場面がすごく楽しいんだよね。
 ただ終盤が、ねえ。演出にメリハリが無さ過ぎるのと、説明不足が重なって、かなりダレる。宮崎映画で初めてだよ。「退屈だ」って感じたのは。それでいて、ストーリー的には、性急にまとめたという感じが強い。ラストのオチに至っては、ギャグかと思うくらいの安直さ。「そうね。こんな馬鹿げた戦争はもう止めにしましょう」って、アンタ!
 ただ、どうにも評価に困るのは、監督自身が意図的にこういうオチにしたフシがあるところで・・・・・・例えば『On Your Mark』で、主人公が死にそうになる度にリプレイが行われる様に。“物語”に対する監督の悪意が感じられるのだ。宮崎作品は『紅の豚』以降、一貫して物語を解体する方向へ向いてるわけで、この映画もその線に沿って鑑賞するのが正解なのかも知れない。もっともこの映画の場合『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』と違い、<純正エンターテイメントとして非常に“低い”レベルでまとまっている様に見える>のが曲者なんだが。
 映像的には魅力的なシーンが多い。とにかく、宮崎メカが大量に出てくるのが感涙もの。街が爆撃され、戦艦が沈むシーンの迫力。ゴム人間や飛行機械から飛び出すクリーチャー達のグロテスクなデザインと動き。ガジェットまみれのハウルの部屋。流星が落ちるシーンの美しさ。ただ、カカシのカブや火の悪魔カルシファーは、「これ本当に宮崎作品?」と言いたくなるくらいつまらないデザインで、こんなところもなんだかアンバランスだったりする。
 なんか文句ばかり書いてるような気がするな・・・・・・。実際、凡庸なシーンが目に付いたのは確かなんだけど、監督のイマジネーションの健在を示す様な、秀逸な場面もまた多かったんだよな。さすがに往年の傑作が持っていた、息を飲むようなシーン-他の凡百の作品と宮崎アニメを差別化していた、魔術的なほど魅了される一瞬-こそ見られなかったものの、20年来のファンとして、結構楽しめた方だと思う。ただ、この手の大作映画では無く、連作短編の様な形で作った方が、このアニメの本来の楽しさを生かせたんじゃないか、という気はする。
 以下、色々気が付いたことを箇条書き。

  • 入り口でカメラチェックあり。ちょっと神経質なんでは。
  • 心配していた有名人声優だが、意外と良かった。倍賞千恵子の少女役、始めは違和感あったけど、最後の方ではまったく気にならず。老婆から少女まで一人で演じてるのを聞くと、やっぱり上手い人だと思う。キムタクもそつなくこなしてた。
  • 美輪明宏荒地の魔女は、モロ以上のハマリ役。
  • 「しばし、待たれい」「魚も嫌いじゃ」「ぼくたち家族だよね?」マルクル可愛すぎ。 彼を主人公にしたスピンオフ短編希望。
  • “動く城”はテリー・ギリアム風味。してみると、気の持ちようによって若返ったり年を取ったりするソフィーの元ネタは、ギリアムの『バロン』かな?
  • その“動く城”、どこでもドアめいた扉はともかく、城の実体がどこにあるか、その概念が壮絶に分かりにくく、終盤の重要なポイントである引越しのシーンを理解しがたいものにしてる。もうちょっと何とかならなかったのかなあ。
  • 上に連作短編として作れば云々と書いたけど、どうせ大作映画として作るのなら、もう一時間足してきっちり物語を終わらせて欲しかった。世界を覆う虚無と真正面から戦うハウルとソフィーが見たかったのだが。
  • 印象的なテーマ曲のワルツ「人生のメリーゴーランド」。どことなくノルシュテイン『話の話』に流れる音楽を思い起こさせる。あれもまた、戦争をバックグラウンドとしたアニメだった訳だが、さて。