「養老孟司 ガクモンの壁」:日経サイエンス・編

養老孟司 ガクモンの壁 (日経ビジネス人文庫)
 一見「バカの壁」を連想する書名だが、もともとは1999年に出版された「養老孟司・学問の格闘」を文庫化にあたって改題したもの。養老孟司と気鋭の学者14人との対談集で、扱ってる内容は考古学や心理学から神経生理学まで幅広い。もっとも、取り上げた題材全てに、何らかの形で脳や脳科学との関わりがあるのは、「唯脳論」の著者による対談集らしいところだろう。「格闘」とか「知のバトル」と言った煽り文句が勇ましいが、実際にはちょっと雰囲気が違っていて、若手研究者の報告に対し、養老氏が自分の得意分野(解剖学、唯脳論)に引き入れた上でコメントを付けている、という感じである。
 「ネアンデルタール人と現生人類の違いはなにか」「ヒトはなぜオカルトや疑似科学を信じるかの」と、面白そうな題材が多く、養老氏のリードの上手さもあって、どの対談も面白く読める。が、やはり対談主の得意フィールドである脳科学、神経生理学関係の題材を扱った対談が、特に興味深い。我々の見ている「現実」が実際には脳内に構築されたバーチャルな「現実」に過ぎない、という最新脳科学の成果は、以前感想を書いた「意識とは何か 科学の新たな挑戦」http://d.hatena.ne.jp/zeroset/20040603#p1 でもその概要を窺うことが出来たが、やはり恐ろしく刺激的で、興味をそそる事実なのだ。「唯脳論」も読んでみようかなぁ。