ジューン・フォレイ特集(上映とセミナー):広島国際アニメーションフェスティバル

 ジューン・フォレイはアメリカでもっとも有名な声優の一人。デビュー作はディズニー「シンデレラ」の猫ルシファー役だが、もっとも有名なのは「ルーニー・テューンズ」のグラニー役だろうか。ディズニーやワーナーの監督たち(チャック・ジョーンズフリッツ・フレレングなど)以外にもウォルター・ランツ、テックス・アヴェリー、スティーヴン・ボサストゥなど数多くのアニメーション監督と仕事をし、彼らと視聴者から大変愛された方である。
ルーニー・テューンズ Broom-Stick Bunny 本日上映したルーニー・テューンズ作品では、これのみ観たことがあった(しかしカートゥーン・ネットワークで結構観たと思ったんだけど、まだまだ未放映作品は多いんだな・・・)。これが彼女のワーナー初出演作で、Witch Hazel役。実は彼女はその直前にディズニーで、やはりヘイゼルという名の魔女の役を演じており、著作権的に問題にならないか心配したと言う。ディズニーのWitch Hazelはある実在の看護婦さんの名前から取った名前だが、チャック・ジョーンズは「このWitch Hazelは有名な薬の名前から付けたものだから大丈夫」と言ったらしい。最近では「ダック・ドジャース」でもこの役をやっており「若い頃より今の方が魔女の役はぴったりでしょ」とのこと。
ルーニー・テューンズ The Honey-Mousers 夫ネズミ(腕っ節強そう)に奥さん(結構カワイイ!)が餌を取ってくるよう頼むが、外には猫がいて・・・というお話。この作品は当時のドラマ“The Honey-Mooners”のパロディとして作られており、ジューンもその主演女優の喋り方に似せて奥さんネズミを演じたと言う。
ルーニー・テューンズ Tugboat Granny ジューンが最初にグラニーを演じた作品。グラニーの出番は少ないが、最初にトゥイーティと一緒にchug, chug, chugと歌うシーンが実に楽しい。
ルーニー・テューンズ Rabbit Romeo ジューンはエルマー・ファッドの飼う凶暴なメスウサギの役。彼女に旦那さんを与えようと思ったエルマーはバッグス・バニーを捕まえるが・・・後は大体想像どうりの話です。
ルーニー・テューンズ The Honey's Money ヨセミテ・サムが金目当てに結婚するが、その結婚相手はやたら凶暴な女で、更に巨大な連れ子までいた、というお話。ジューンは凶暴な女と、その息子の二役(? 息子のほうは違ったかも)。しかしヨセミテ・サムの単独主演作なんてあったんだ・・・。
ロッキー&ブルウィンクル Fractured Fairy Tales:Rapunzel ロッキー本編の間にやっていたおとぎ話のパロディで、ユニバーサルでの仕事。ここでも実に楽しそうに魔女の役を演じておられる。
ロッキー&ブルウィンクル Jet Fuel Formula:Episode12 チャイニーズ・シアターにはメル・ブランク(バッグス・バニーなどの声優)の手形が飾られている。ところが、彼と多くの作品を競演したジューンの手形は無かったので、作ろうという話になったそうだ。ところがあの手形を作るのって、1万ドルの費用が必要だそうで、その費用を出してくれたのがユニバーサル社。「他ならぬロッキーを演じてくださった方ですから、是非、我が社に費用を出させてください」と言われたとのこと。
 このエピソードでも分かるように、日本ではかなりマイナーで(USJでちょっとは有名になったかな?)、しかもそのキッチュさのみが語られることの多いこの作品、アメリカでは今でも結構な人気がある様だ。2000年には実写映画が作られた他、DVDボックスも好調な売上げとのこと。ジューン自身もこのロッキー役には並々ならぬ思い入れがあるそうで、この日もロッキーを象ったペンダントを身に付けておられた(姪御さんが作られたものだそうで、テレビ等に出演する時は必ず身に付けているとのこと)。
 彼女によればこの作品は「台詞が良く練られており、とても洗練された素晴らしい作品」だそうである。正直、カートゥーン・ネットワークで見ていた時は、単にその妙な設定と異様なほどのチープさしか印象に残っていなかったのだが、彼女の言葉を聞いてから見ていると、なんだか前衛的で洗練された作品のように見えるのが面白い。いや、俺って影響されやすい人間だもんで・・・。でも実際、大画面で改めてじっくり観ることで、リミテッド・アニメならではの美学を感じ取れた事も確か。
 ロッキー&ブルウィンクルの製作は当初1950年代に行われるはずだった。監督のジェイ・ウォードに昼食に誘われたジューンは、マティーニを勧められ、その場で「空飛ぶリスとヘラジカのコンビでアニメを作りたい」と言われたそうである。ジューンも初めは「この人何ヘンなこと言ってるの?」と思ってたそうだが、二杯目のマティーニを飲み干すと「これは素晴らしいアイデアだわ!」と思うようになってたそうな( ゜д゜)。もっとも、ずっと後に実際の制作が始まるまで、この日の事は「昼間からマティーニを飲んだ」という記憶しか残ってなかったそうだが。
 彼女はこの作品でロッキー以外にも悪女のナターシャの声も演じていた。ジェイ・ウォードからは「ナターシャはあくまでPoyysylvaniaという架空の国のエージェントなんだから、ロシアなまりは出さないように」と念を押されたそうである。でもやっぱり旧ソ連の人からは「自分達を悪役に描きやがって」と思われてたそうで、ナターシャを演じたジューンにまで悪感情を抱かれたのが悲しかった、とのこと。この辺りからも、逆説的にこの作品の意外な(?)人気が見て取れる。
ベイビー・ルーニー・テューンズ “Creature from the Chocolate Chip”“Sylvester the Pester” 最近日本でもキャラクター商品を見かける、赤ちゃん版ルーニー・テューンズ。ラグラッツを思わせるところがあるが、その人気に乗じたものなんだろうか。正直大人が観て面白いものじゃなかった。ジューンはもちろんグラニー役(グラニーだけはお婆ちゃんのまま)。後、シルベスターの役もやってた・・・かな?(記憶曖昧ですみません)。
 最後に質疑応答があり、最初の質問は日本アニメのアフレコ方式をどう思うか、というもの。これについては、昔そうだったことは知っていたが、あくまで過渡的なものだと思っており、今でもアフレコ方式でやってると聞いた時は大変驚いたそうである。次に、彼女はアカデミー会員であり、短編アニメーション部門の存続や長編アニメーション部門の設置に、大いに尽力されたとのことだが、その情熱はどこからでてくるのか、という質問。これに対しては、彼女はアニメーションと言う芸術表現をとても素晴らしく、可能性のあるものだと考えているからとの答えだった。最近はCG作品ばかりになってしまい、手で描く描線の残るセル方式に愛着を持つ彼女は、とても寂しく思っているそうである。
 ジューン・フォレイの声はルーニー・テューンズなどを原語で観ているときに何度も聴いたが、本人を見るのは、もちろん初めてだった。アメリカ人にしてはとても小柄な女性だが、遠くから見ても芸能人らしい華と気品を強く感じさせるところは素晴らしい。講演の途中で、突然魔女ヘイゼルの「イーヒヒヒヒヒ」という笑い声やロッキーの「Hokey Smoke!」という掛け声を出したり、キャラクターの声色で喋ったりしておられたのが、とても可愛らしくて印象に残ったのだった(通訳の方は困っていたが)。