「パヴァーヌ」キース・ロバーツ
- 作者: キース・ロバーツ,越智道雄
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2000/07/01
- メディア: 単行本
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読むのに時間が掛かった。読み難かったという訳じゃ無い。この作品の肝は詳細な情景描写にあり、細かな所まで読み逃さないようにするには、必然的にゆっくり読まざるを得ないからだ。そのおかげもあって、この魅惑的な世界にどっぷり浸ることが出来た。実際、解説にもあるように、この小説の舞台には「天空の城ラピュタ」や「名探偵ホームズ」など宮崎駿の作り出した、架空の19世紀世界と共通する魅力がある。
ただ、自分としてはこの作品の結末には疑問が残る。(以後ネタばれがあるので、未読の方は読まないで下さい)
この小説のラストで、実はこの世界は高度科学文明が戦争によって滅んだ後、再建された世界であることが明らかになる。カトリック教会の真の目的は「人類が、発達したテクノロジーを扱うために、真に相応しい社会に成るまで、テクノロジーを抑制する」ということだったのだ。
ここが納得のいかないところで、要するにパヴァーヌの世界が我々の世界より「うまくやっていける」様にはとても見えないのだ。結局、文化や社会の発達と、テクノロジーの発達は相補的な関係にあるんだと思うし、テクノロジーと切り離して、モラルや社会制度だけ発達するというのは考えにくいんじゃないだろうか。「衣食足りて礼節を知る」では無いが、現在の先進国で、概して命を大切にする様な文化が発達しているのは、ペニシリンや人工肥料等の発明で「命が安くなくなった」事と無関係で無いはずだと思う。
個人的には、市井の人々の何でも無い人生の断片を描いた、第1・第2楽章が最も良かった。特に第2楽章のラストシーンの美しさは心に残る。ちなみに、パヴァーヌとはゆったりした舞踏曲の一種で、その由来はイタリアにあるとの事。ローマに支配された世界を描く小説として相応しい名前だろう。