『秘戯書争奪』山田風太郎


 時は安政。秘書「医心方房内篇」の強奪を命ぜられた丹波陽馬と甲賀のくノ一たちは、七人の伊賀忍者と激闘を繰り広げる。しかし、伊賀忍者の指揮をとるのは丹波陽馬の恋人、雪羽であった。果たして二人の、そして秘書の運命は……?
 うーん、傑作とは言えないながらも駄作というほどつまらない訳ではなく、まあ、普通に面白い話。敵味方に分かれる恋人同士というのは山風先生お得意の設定。しかし、主人公の役立たずっぷりは『武蔵野水滸伝』を連想してしまった。もっともあんな八方破れな話しではなく、地味ながらもこじんまりとまとまってるし、最後にもちょっとしたどんでん返しがあって面白い。
 本書に関しては忍法バトルよりも、むしろ秘書「医心方」や東洋の性医学を巡る薀蓄のあたりの方が面白い。そもそも命を掛けて戦う目的が「将軍の陰萎・早漏を治すため」という思いっきり下世話なものだったり、伊賀忍者の側に「必ず相手のくノ一を相手に、医心方房内篇に書いてある性技を試してから倒さなければならない(それも、該当個所の音読付きで)」という珍妙な制約があったりするところ、いかにも山風らしいナンセンスさが楽しい。

秘戯書争奪 (角川文庫)

秘戯書争奪 (角川文庫)

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