『日本SF論争史』巽孝之編

 日本人によるSF評論のアンソロジーだが、論争に関わった論文だけを集め、そこからSFの歴史を俯瞰する、という方針で編集されている。評論集でありながら、日本SF大賞を受賞した大作(値段も5000円超!)。年代も発表媒体もバラバラな論考が集められているものの、様々な論者によって小松左京ハインライン、そして安部公房への評価が繰り返しリフレインされ、全体を通す芯のようになっているのが面白い。
 それにしても、ここまで自らの定義について議論を繰り返してきたジャンル文学というのは、他に無いかも知れない。まさに論争がSFを育んだ、というところか。ただ正直な所、今の自分の意識としてはこの自意識過剰ぶりが、ちょっとうっとおしい。ニューウエーブ論争あたりは特にそう感じるのだが、これらの論文がかもし出してる「雰囲気」に、とても辛いものを感じてしまう。個々の作品やニューウェーブ運動総体の成果としては評価するのだけれども……。あと、著者とファンの距離がやたら近いのがSFコミュニティの特徴だが、それ故にか感じる煮詰りっぷり、独特の閉塞感にもイライラさせられた。
 また、最も近年の論争である「クズSF論争」に関しては、編者が一方の当事者であるせいか、一方的な論考だけを集めたアンフェアさが気になった。これはもうちょっとどうにかならなかったのだろうか。
 と、いう訳で個人的に面白かったのは、笠井潔野阿梓の評論。笠井潔の非SF系評論としては『ユートピアの冒険』を読んだことがあるが、かなり感銘を受けた記憶がある。この本に納められた評論も、SFを通して後の文明批評に繋がる思想が仄見えていて、とても興味深い。
 巻末の「日本SF論争史・年表」は、最初期から90年代末まで40年に及ぶSF論争の歴史を俯瞰できる労作で、これだけ眺めていても面白い。「愛国戦隊大日本」論争に山形浩生も参加してたなんて、知らなかったよ。
はてな年間100冊読書クラブ 7/100)

日本SF論争史

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