S-Fマガジン3月号

 年初恒例の英米SF受賞作特集。全体的に小粒というか、チャイナ・ミエヴィル以外は「ちょっとイイ話」レベルなのが、なんとも。もっとガツンと来る話を読みたかった。

 んー、そこそこ面白いし雰囲気は良いけど、良くある話という感じ。

  • 「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」チャイナ・ミエヴィル

 昔『超芸術トマソン』を読んだ時、これは“野良”建築物だな、と思ったんだけど、そういう発想を短編に仕上げたような話。とにかくアイデアの奇怪さが素晴しい。技巧を凝らした小説なんだけど、自分にきちんと読み解くだけの読解力が無くて、どうもぼんやりとした印象しか思い浮かばないのが残念。

  • 「遺す言葉」アイリーン・ガン

 蔵書の膨大な書き込みを通じて亡き父の内面に触れていく、という展開が凄く良い。だから逆にラスト直近の幻想的なシーンは蛇足の様な気もした。無理に幻想文学風味にしない方が良かったんじゃないかと思う。

  • 「チップ軍曹」ブラッドリー・デントン

 インプラントを埋め込まれ、主人との共感能力を得た軍用犬のお話。健気なわんこの一人称で感動させようなんて、そんなあざといネタには引っかからないぜ!と思いつつも、泣けた。犬SFには弱いのよ。不気味な展開を想像させるオチも、ちょっと面白い。
 作中で描かれる戦争は明らかにイラク戦争を下敷きにしたもので、新鮮な感じがする。ただ、そこで描かれる陰謀が、三十年以上前に書かれた『終わりなき戦い』とかと質的に変わらないってのは、いかがなものかなあ。


 次号は創刊600号記念特大号。ラファティやイーガンなど5名の海外作家のノヴェラ一挙掲載だそうな。なんか、ついこないだ創刊500号だった気がするんだがな……歳を取るって嫌ねえ。

S-Fマガジン 2006年 03月号

S-Fマガジン 2006年 03月号