「新・生物物理の最前線―生命のしくみはどこまで解けたか」日本生物物理学会・編

新・生物物理の最前線―生命のしくみはどこまで解けたか (ブルーバックス)
 生命活動において、生体内における分子の働きを直接観測する技術は、90年代以降になって急速に発達した。この本では、生物物理によって解明されつつある、生命活動の分子レベルでの仕組みを、かなり詳細に説明している。また、内容的にはヒトゲノム計画、分子モーター、光エネルギーの変換、チャネルたんぱく質など、幅広いトピックを扱っており、手広くこの分野の知識を得ることができるのは嬉しい。最新の技術によって明らかになった、イオンチャネルや各種酵素の立体構造は、まさに分子機械というべき姿で、機能的な美しさすら感じさせる。
 個人的には、分子モーターについての記事が一番興味深く読めた。と、言うのも、自分自身が大学でやってた研究内容に関連するからだが・・・。そのころは薄ぼんやりとしか分かってなかった、ミオシンやキネシン、ダイニン*1の分子レベルでの振る舞いが、かなり解明されているのは感慨深い。しかし筋繊維の収縮時に、ミオシンがアクチンフィラメントの上を「歩く」って説、初めて聞いた時は冗談にしか聞こえなかったものだが、写真にまで取られてたとは・・・本当にこの分野の進展は速い。*2
 ただ、一般的に書かれた本にも関わらず、内容的にかなり難しいのは問題じゃないだろうか。最低でも大学の一般教養レベルの知識は必要だし、専門課程に片足突っ込んでないと分からないんじゃないか、と思われる所も多々ある。また、複数の著者が分担して執筆しているため、散漫な印象もある。もうちょっと内容を絞り込んで、基本知識から丁寧に説明してあれば、より万人向けになったと思うし、そもそもブルーバックスという叢書の性格からしても、そういう内容の方がふさわしい様に思う。

*1:筋繊維や繊毛など、生体内の「分子モーター」を構成するたんぱく質

*2:もっとも、筋繊維収縮のメカニズムについては、ミオシン機械的に折れ曲がってアクチン上を「歩く」という説と、確率的なメカニズムにより滑るように移動するという説があり、どちらが正しいか、まだはっきりと決着がついた訳では無い。